2005年05月30日

心の詩集―総特集

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心の詩集―総特集


河出書房新社 2000-08
¥1,200 (税込)


かつて、言葉の力を皆が信じていた。傷ついた時、悲しい時、生きる勇気を思い出すための名詩を集成。金子みすず、宮沢賢治から茨木のり子まで。


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文芸/詩・詩集/詩・詩集(日本)

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 ■父に 江國香織

 病院という
 白い四角いとうふみたいな場所で
 あなたのいのちが少しずつ削られていくあいだ
 私はおとこの腕の中にいました

 たとえばあなたの湯呑みはここにあるのに
 あなたはどこにもいないのですね

 むかし
 母がうっかり茶碗を割ると
 あなたはきびしい顔で私に
 かなしんではいけない
 と 言いましたね
 かたちあるものはいつか壊れるのだからと
 かなしめば ママを責めることになるからと
 あなたの唐突な
 ――そして永遠の――
 不在を
 かなしめば それはあなたを責めることになるのでしょうか

 あの日
 病院のベッドで
 もう疲れたよ
 と言ったあなたに
 ほんとうは
 じゃあもう死んでもいいよ
 と
 言ってあげたかった
 言えなかったけど。
 そのすこしまえ
 煙草をすいたいと言ったあなたにも
 ほんとうは
 じゃあもうすっちゃいなよ
 と
 言ってあげたかった
 きっともうじき死んじゃうんだから
 と。
 言えなかったけど。

 ごめんね。

 さよなら、
 私も じきにいきます。
 いまじゃないけど。
posted by sizuku at 03:20| Comment(0) | TrackBack(1) | 文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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